ドラマ「ゆうべはお楽しみでしたね」(※ゆうたの)を深堀り!

本田翼、岡山天音、宮野真守、芦名星、あの、出演のドラマ「ゆうべはお楽しみでしたね」に嵌ってしまった人間の勝手にドラマの心情解説(あらすじ、感想、創作、小説、ネタバレ有り)。

ドラマ「ゆうべはお楽しみでしたね」第5話のあらすじ(心情解説)

 

 

それでは、ドラマ「ゆうべはお楽しみでしたね」第5話のあらすじ(心情解説)を見ていきましょう。

 

前回の4話は以下。

yutano.hatenadiary.jp

 

 

さて、第5話の主な出来事は、元彼たかしの登場とたくみの転勤話の確定です。

 

親友のあやのにたくみの事を好きだとその場でウソをついてしまったモヤモヤを抱えたみやこですが、たくみと同じ部屋(リビング)で、一緒にドラクエをしたことで、気持ちが通じ合い、距離がより近づきます。

 

と、同時にたくみもみやこが特別な存在になってることを意識します。

 

そんなところに、たくみの転勤話(確定する)がやってきます。たくみは、みやこと一緒に居たいのに転勤話をどうにも出来ず、時間だけが無情にも過ぎていきます。

 

一方、みやこは、たくみの転勤を前向きに捉え、大阪に行くまでの間だけでも、一緒に過ごそうと(ドラクエを誘い)しますが、たくみは、みやこの元彼のたかしからのお願いもあって、たかしとのドラクエに付き合わざるおえず、貴重なみやことの時間を割いて、たかしに浪費します。

 

残り少ない時間にも関わらず、たくみからドラクエを断られたみやこは、そこで初めて、たくみの存在の大きさに気づきます。元彼のたかしから、再度、やり直そうと言われたとき、ただ断るので無く、わたしには好きな人がいる、と言った上で、たかしを拒絶します。

 

たくみへの気持ちがはっきりと固まったみやこですが、たかしからたくみが元彼との復縁を応援していたことを知らされて、傷つきます。

 

 たくみの気持ちがわからなくなったみやこは、早々にたくみの部屋を出て行きます。

 

ここまでが、第5話です。

 

かなり要点のみをまとめてしまいましたが、一応序盤に、みやこと元彼の再会と、みやことあやのの会話、そして、たくみとみやこが二人で料理をするシーンなどもありましたが、料理シーンに関しては、ここも前にもありましたが、演技がフリー演技になっていて、情報量が少ないので飛ばします。

 

ここは、みやことたくみの二人というよりかは、本田翼と岡山天音本人のやりとりに見えてしまい。世界観が微妙に違い、ちょっと気持ちが冷めます(笑)。っということでこの部分は自分の中でカットしてます。

 

とは言うものの、個人的に感情移入してこのドラマを見た際に、この第5話は、両方の気持ちが手に取るようにわかり、見てるだけでかなり辛い気持ちになります。

 

しかし、作品(話)としての出来は相当良く、一部のシーンを除けば、ドラマの世界観の心情に思い切り浸れるまで没入でき、感情の変化をめちゃくちゃ楽しめます。

 

ただ、何度も見て行くうちに思うのは、最終回の6話で、作品として完成された結末は用意されていますが、もしも、あのとき○○だったら、という別パターン(分岐)のストーリーも考えられ、どうしても想像でそちらも考えたくなってしまいます。

 

個人的に、このドラマでやり残しがあると言えば、6話の展開まで待たずに、半ばたくみがフライング気味にみやこに告白していくパターンと、みやこ側からたくみに告白するパターンの2パターンです。

 

このドラマでは、いろいろ話が流れて、最終回(6話)でたくみ側からみやこに告白して、最終的に付き合うという流れになりますが、状況によっては、全然みやこからたくみに告白する雰囲気もあります。

 

例えば、この5話の最後、たかしがたくみへの一言(お礼)をみやこに伝えなければ、みやこが誤解して、たくみの部屋から急いで出ていく動機(選択肢)はなくなります。

 

また、たくみに少し勇気があれば、大阪への転勤が決まった後の翌日、みやこを駅まで送っていくところでも、あそこから十分別のストーリーが考えられます。

 

実は、個人的にこの心情解説で一番やりたかったのは、別の結末を描いてみたら…という部分にあります。今までの勝手にシーンをノベライズ化は、このドラマの世界観を文字に起こすとどうなるんだろう?という部分での興味です。

 

通常、脚本家が書いた台本があって、俳優がそれを読んで、演技として表現しますが、ドラマを見ていくことで、実際の台本はどうなってんだろ?という疑問が素人ながら出てきます。

 

なので、ここでは、逆にシーン(俳優の演技)を見てから、台本がどうなってるのか、心情部分を勝手に想像して、文字に書き出してみるという作業を行っています。

 

ちなみに少しやってみて、意外とドラマの世界観を保ちつつ、行けそうな気がしたので、ここからは、完全新作別ストーリーで組み立ててみようと思います。

 

っというのも、ドラマにある時期、とてつもなく嵌ったとしても、時間が過ぎたら、完全にそのことを忘れてしまいます。気持ちは、一時の物と言ってしまえば、それまでですが、その熱がまだ冷めないうちに、やっておきたい気がしています。

 

たぶん、もう数週間か、数ヶ月も経ったら、今の「ゆうべはお楽しみでしたね」の盛り上がりも消え、何かを積極的に書く気すらも無くなってしまうだろうと思っています。

 

とりあえず、今回挑戦したいのは、5話の中盤、たくみがみやこを駅まで見送ったところで、急にたくみの気持ちに変化が起きたらどうなるのか?という部分です。

 

個人的にあそこの段階で、たくみは、みやこに対して、十分動ける動機はあると見ています。告白こそいかないまでも、何かしらし行動を起こしても良いと思っています。

 

まーすでにのちのストーリーを知ってるからこそ、逆算して、そこでもイケる?という判断ではありますが、では、あそこの段階で何かしら、たくみに行動を起こさせてみようということで、あそこから枝分かれする新たな別ストーリーを創作してみました。

 

 まーかなり長くなってしまいましたが、暇でしたら、お付き合いください。先に言っておきますが、このページだけで、23000字以上ありますので、相当長いです。

 

 

<もしも、たくみが急に月9のキムタクばりに「ちょ、待てよ!」的な、行動をみやこに起こしたら…-たくみ目線->

 

 

 

 「え、嘘でしょ!?」

 

ゴローさんに大阪に転勤することになったことを伝えた。

 

はじめは、すごい驚いてショックを受けていたけど、俺に気を使って、それ以上何も言わなかった。

 

それまで一緒にドラクエをして騒いでいたので、その流れでゴローさんは、いつもみたいに厳しい言葉を俺に浴びせてくるのかと思っていたけど、そんなことはなく、ずっと優しかった。

 

俺のせいでこんなことになっちゃったから、もしゴローさんがウチに住みたかったら、ずっと住んでてもいいよ、とは言ったけど、それはできないとあっさり断られた。

 

「でもさ、とりあえず大阪に行くまでの間は、まだ一緒にいれる訳でしょ」

 

ゴローさんは、そう言ってまたドラクエを続けた。

 

明日は、仕事があると言ってたけど、結構遅くまで一緒にゲームをした。転勤の話なんて忘れてしまう位。明日休みだった俺は、ゴローさんに付き合ってずっとゲームをした。

 

翌朝、起きていくとゴローさんは、仕事に行くため、いつものように洗面所を独占していた。

 

冷蔵庫を見ると、ちょうど食料がなかったので、スーパーに買い物に行く。そのついでに駅までゴローさんを送っていくことにした。

 

家から駅までの間、いつもなら何かいろいろと話してくれるゴローさんだけど、今日は、あまり元気が無く、口数も少なかった。

 

ゴローさんも今後の引っ越しとか新しい部屋も探さないといけないだろうし。いろいろ考えることが多いのかなと思う。俺の転勤のせいで、ゴローさんに負担を掛けて、ホントに申し訳ない。

 

いつまででも居ていいよって言ってたのに…俺。

 

特に話が盛り上がること無く、駅に着く。

 

「あっ、じゃあ…」

 

ゴローさんはそう言って、仕事に向かおうとする。

 

「うん、俺、買い物して帰る」

 

 何か他にも言いたかったけど、ゴローさんに掛ける言葉がみつからない。それだけ言って、そのまま別れる。

 

「…あ、パウさん!」

 

行こうとして、呼び止められる。

 

「あの…知らない場所で新しい人間関係つくるの不安なのわかる…けど、きっとパウさんなら大丈夫。」

 

自分のことだけでも大変なのに、俺の心配まで…やっぱりゴローさんはゴローさんだ。

 

「ありがと…」

 

でも俺のことなんて気にしなくていいから。

 

「ううん、じゃあ いってきます」

 

 そう言って、ゴローさんは、俺ににっこりと笑い、元気に駅の構内へ歩いていった。

 

ゴローさんの歩いていく後姿をしばらく眺める。その先に初めてゴローさんと出会った時の階段が見えた。ふと出会った時の記憶が蘇る。

 

「勧誘なら間に合ってま~す、待ち合わせしてるんで、邪魔しないでもらえますか」

 

初めてゴローさんを見た時、派手な服装をしていて俺の苦手な女の子のタイプだと思った。

 

あの時の俺は、まさかその人と一緒に暮らすなんて考えてもなかった。

 

ただ、あの時、ただ一言声を掛けただけで、男女でルームシェアは、間違いだとわかってもらえれば、そこで話が済んで、一緒に住むなんてことにはならないと思っていた。

 

でもゴローさんは、そんなこと構わずうちにやってきた。

 

アパートが取り壊されて住む家が無いのはわかるけど、だからと言って、男の家に女の子が一人で来て、一緒に住むのは勇気がいるだろうと思う。

 

だからすぐに部屋を見つけて出て行くと思っていた。

 

いくらゲームで1年以上過ごしていた仲だとしても、俺が催促するまでも無く、ゴローさんは自分の意思ですぐに出て行くと思っていた。

 

お互い性格も合わないし。ましてイケメンでもない俺みたいな奴と一緒に住んで居たいと思う理由もないし。

 

高校時代のクラスメートの女子なら、キモイ!と言ってさっさと出て行ってるだろう。

 

普通なら、そうなるのに…ゴローさんは、俺とパンケーキを食べについて来てくれたり、一緒に遊園地や夜中までゲームもしてくれる。こんな俺と。

 

でも、それも新しい部屋が見つかれば、その時には、何事もなかったように、パウさん、じゃあね、って出て行くと思う。

 

俺がゴローさんのことをどう思ってようとそれは関係ないんだ。

 

特に意味は無い。わかってる、…でも、それなのに、今の俺は、ゴローさんと一緒にゲームが出来なくなること、もう一緒に近くにいれなくなることを考えると、どうしてもそれを受け入れたくないんだ。

 

もしこのまま、俺が大阪に転勤になって、ゴローさんとルームシェアをやめて、別々に暮らしても、まだ今みたいな関係のままゴローさんといられるのか。

 

ゴローさんに彼氏が出来たら…。

 

俺なんてそこに入る隙間なんて無い。

 

今のゴローさんと俺の関係なんて、そんなに強いものでもない。

 

きっとウチから出て行ったら、朝、夢から覚めたときみたいに…記憶にだけうっすらと残っているだけで、また新しい記憶にすぐに塗り変わって、俺のことなんてすぐに忘れてしまうよね。

 

…ゴローさん。

 

さっきまでいたゴローさんの姿は、もう無くなっていた。

 

…今、何かしなきゃ。

 

俺は、ゴローさんの後を追いかけた。改札を飛び越え、階段を下りて、ホームに向かったゴローさんの後を追う。

 

ホームについた時、すでに新宿行きの上りの電車が止まっていて、乗客が乗り降りしていた。ホームにはゴローさんの姿はなかった。

 

早歩きで、車内を外から見て回る。

 

カウントダウンのように扉が閉まるブザーがホームに勢いよく鳴り響く。

 

ようやく車内にゴローさんの姿を見つけた時には、ドアは閉まり、車両はゆっくりと動き出していた。

 

俺は、動き出した電車と併走するように、駆け足でゴローさんが乗ってる車両のところまで近づいた。でもゴローさんはこちらには気づいていない。

 

「ゴローさん!」

 

窓に近づいて、出来るだけ、大きな声で、名前を呼んだ。

 

車内にいたゴローさんは、何かに驚いてホームの方を振り向いた。ホームを走っていた俺のことに気づくと、パウさん?…と言ったように、わずかに唇を動かした。

 

でもゴローさんを乗せた電車は、そのまま走り去っていった。

 

ホームの一番先まで、電車を追いかけた。

 

もうそれ以上は、進めなかった。

 

間に合わなかった…。

 

特に何かをしようと思ってた訳じゃないけど、ゴローさんに会えば、もう一度顔を見れば、何か出来ると思った。

 

荒く乱れた呼吸を整えながら、今来た道をゆっくりと戻る。ホームから階段を上って、改札から駅の外に出る。そうだ買い物…。

 

ちょうどその時、後ろから誰かに声を掛けられた。

 

「お客さん…」

 

駅員だった。

 

「あ~すいません」

 

我に返って自分がしてしまったことを反省する。やってしまった。

 

ちょうどその時携帯が鳴った。いつもの癖で携帯を取り出して中身を確認する。

 

メッセージが1件入っていた。

 

”何?パウさん、どうしたの?”というゴローさんからのメールだった。すぐに返信しようと思ったとき、その手を掴まれた。

 

「ちょっと一緒に来てもらえます」

 

そう言って、駅員は逃げ出さないように俺の携帯を取り上げた。仕方なく一緒に駅員室に付いて行く。でもちゃんと説明すれば、定期だって持ってるし、少しお金を払えば、すぐに帰してくれるだろう。

 

それより、早くゴローさんに返信しなきゃ…。

 

駅員室に行って、事情を説明する。

 

 

「俺はやってないです」

「みんな始めはそう言うんだよ!」

「だから、俺は本当にやってないんですよ、痴漢は」

 

駅員室に連れて行かれたとき、俺を連れてきた駅員が急にアナウンスで呼ばれ、事情を知らない別の年配の駅員が代わりに担当することになった。

 

いくら説明しても、話が全くかみ合わない。

 

俺、本当にやってないんですよ。痴漢は。

 

ゴローさん…。

 

 

 

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「ううん、じゃあ いってきます!」

 

私は、駅でパウさんと笑顔で別れると、元気に歩き出した。パウさんに落ち込んでる姿は見せたくない。パウさんの方が新しい職場や環境に不安が多いのに私の方が落ち込んでたら、余計心配を掛けてしまう。

 

せめて見えなくなるまで、それまでは、何事も無いように元気な姿でいるんだ。背中に感じるパウさんの視線が外れると、緊張が緩んで体の力が抜けてきた。

 

一人になると、余計孤独を意識する。本当にもうルームシェアは終わってしまうのかな。昨日の楽しかった記憶が過ぎる。

 

あんなに一緒にいて楽しかったのに…。

 

また終わるの…また一人になる。

 

私からいつも幸せは突然逃げていく。そうなのパパ…。

 

「ゴローさん!」

 

動き出した電車の中で、どこかで私を呼ぶ声が聞こえた。辺りを見回してみると、電車の外で、電車と併走するように走ってる人がいた。

 

その人の顔を見て驚く。

 

パウさん?

 

一瞬だけ目が合った。でもよくわからなかった。

 

何か忘れ物でもしたのかなと持ち物を確認してみたけど、忘れ物は無かった。とりあえず何か緊急のことなのかもと思って、パウさんにメールする。

 

でもいくら待っても、返信は返ってこなかった。

 

そのまま仕事先の渋谷に着いた。

 

いつも通り、仕事着に着替えて、仕事に入る。

 

お客さんを数人相手して、お昼の休憩になる。

 

携帯を見ても、パウさんからは、連絡は入ってなかった。

 

それから、何度かメールや電話をしてみても、ずっとつながらなかった。

 

なんで出ないの?

 

急に不安になる。

 

朝のことを思い出すと何かあったんじゃないかと心配になる。

 

でも私の心配をよそに、普段は暇な時間なのに、今日はお客さんが続く。

 

こう見えて仕事に対しては、真面目な私は、私事を理由に途中で抜けることができない。お客さんも待たせられない。パウさんのことを気に掛けつつ、とりあえず今は仕事に集中する。

 

なんでもなければいいけど…。

 

 

 

 

--------

 

 

 「ふ~」

 

やっと解放された。外はもう暗くなっていた。

 

久しぶりに外の空気をお腹いっぱい吸う。

 

取り調べというのは、こういうことなんだと思った。もともと自分のことをしゃべるよりも人の話を聞いてる方が楽な俺にとって、自分の話だけ永遠としゃべり続けるのは、苦痛でしかない。

 

二度とこんなことにならないように行動には気をつけよう。

 

でも誤解が解けて本当によかった~。

 

あ、そうだ買い物しなきゃ。

 

久々に戻ってきた携帯を確認する。

 

ゴローさんから連絡が何件も入っていた。ねえ、何かあったの?本当に大丈夫?っという心配のメールから、もしかして、パウさんのイタズラ?やめてよねそういうの?という不信感を感じ始めたメールまで入っていた。

 

電話も何件も入っていた。

 

冷静になって状況を考える。今から折り返し電話して説明するのもいろいろと話がややこしくなっていて、説明が苦手な俺はなんて言っていいかわからない。それに無賃乗車しそうになって、なぜか痴漢の疑いで今まで警察に捕まっていたなんて、絶対に言いたくないし、言えるわけがない。

 

それに今の俺は、もう朝の時の俺じゃない。今の気持ちは恐ろしく冷めている。

 

とにかく、もうヘトヘトで疲れた。

 

今は、話し合いとかそういうものからは、出来るだけ距離を置きたい。

 

今はただ、一人でゆっくりと静かに休みたい。

 

でもこのまま家に帰れば、ゴローさんがもうすぐ帰ってくる。顔を合わせたら心配されて、ねほりはほりいろいろ聞かれると思う。もう取り調べみたいなのは御免だ。ゴローさんの容赦ない尋問が絵に浮かぶ。

 

今日だけ、…ホント今日だけでいい…一人にして欲しい。

 

とりあえず、行方不明だと思われると困るから、旅に出ます、とだけ、ゴローさんに一言メールしておく。ゴローさんならこの意味をたぶんわかってくれる。

 

今日は、もう誰とも話したくないから携帯の電源は切っとこう。

 

はあ、ホントに疲れた~

 

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京王堀之内~」

 

やっと駅に着いた。心配になって仕事を早く上がらせてもらったけど、結局夜になってしまった。どこかに携帯を落として、連絡が取れなくなってたとしても、さすがに家には帰ってきてるはず。今はただ、そう信じてる。

 

駅の改札を出たとき、ちょうど携帯が鳴った。

 

中身を見るとパウさんからだった。

 

良かった~、無事だったんだ。安心すると急に体の力が抜ける。

 

でも本文を読んで、またモヤモヤした。

 

「旅に出ます。 byパウダー」

 

何?どういうこと? 気になって電話で折り返してみたけど、繋がらなかった。

 

何どういうこと。電源切ってるってこと? 

 

あ~もうイライラする~。

 

とりあえず早く家に帰ろう。もうこんな格好だけど家まで走って帰るか。今は、人目を気にしてる場合じゃない。そう決めて走り出そうとした時、見慣れた姿が目についた。

 

あれ?、あそこに歩いてるのって、パウさん。

 

あれパウさんだよね。

 

「パウ…」

 

呼びかけようとした時、服装を見て躊躇する。朝と同じ格好のままだ。もう夜で寒くなってきてるのに。

 

何かわからないけど、嫌な予感がした。

 

パウさんは、肩を落として一人で歩いていて、とても疲れてるように見えた。

 

しかも家とは逆の方向に歩いている。

 

朝から今までの間に一体何があったんだろう。

 

ふと嫌な想像が頭をよぎる。

 

まさか自殺?…

 

転勤が決まってからかなり悩んでたみたいだったけど、でも、そこまでの状態じゃなかったはず。朝の会話を思い出す。さすがに違うと思う。

 

でも、朝、電車のところまで走ってきて、私を呼んだのはなんだったんだろ。

 

相談したいことがあれば、メールすればいいのに。なんで、あの時、わざわざ直接声掛けに来たんだろ。昔の嫌な記憶が、負の連想を呼び起こす。

 

もしかして、私が乗ってる電車にぶつかって死のうとしてた?

 

想像を膨らませると、どんどん嫌な想像が広がっていく。

 

でも死ねなくて、朝から今までずっとうろうろしてるってこと。

 

パウさんどうしちゃったの。

 

とにかく恐る恐る後を付ける。

 

ビジネスホテルに入っていく。

 

なんでホテルに。

 

ウチに帰ろうよパウさん。

 

受付で、鍵もらって。

 

今日はここに泊まるの?

 

鍵についてたプレートが見えた。…810号室か。

 

ちょっと、8階って高くない。

 

もしかしてパウさんホテルの窓から…。

 

考えるだけでも恐ろしくなった。

 

パウさんが泊まってる階に上がる。

 

やっぱり私が声掛けなきゃ。絶対にパウさんを死なせない。

 

本当に死んでしまったら、せかいじゅの葉じゃ、生き返らないんだから。

 

パウさんの部屋番号をノックした。

 

 

 

-------

 

 

歩くのも疲れた。

 

値段に誘われて、駅近くの適当なビジネスホテルに入ってみた。とりあえず、安めの空いてる部屋を選ぶ。意外と人がいるみたい。

 

8階か。エレベーターで上がるのもしんどい。

 

とりあえず、今日は、この部屋で一泊して、明日、ゴローさんに謝ろう。…でもなんで謝るんだっけ。頭が上手いこと回らない。

 

ホテルの部屋に入る。

 

安いシングルルームなので、広さは4畳ほど、自分の部屋より小さかった。

 

中に入った印象はとにかく狭い。

 

ベッドと向かい合わせで机と椅子があるだけで、他はテレビが置いてある位。ほとんどただ寝るだけのような空間。一応奥に窓がついてるけど、落ちないように鉄柵がついていて、夜景を楽しむような場所でもない。

 

入り口のところに申し訳程度にユニットバスとトイレがある。

 

ベッドに腰掛け、そのまま少し横になろうとしたとき、ドアをノックする音が聞こえた。

 

こんなビジネスホテルに人が訪ねてくることなんてあるのだろうか。ホテルの従業員なら、まず内線で用件を伝えてくるだろう。

 

訝しげながら恐る恐るドアに向かい、のぞき穴から外を確認する。でもなぜかのぞき穴が真っ暗で何も映らなかった。

 

ドアガードを掛けたまま鍵を開けて、10cmほどドアを開けてみた。

 

「はい」

 

僅かに開いたドアの隙間から、覗き込む様に廊下の様子を窺う。

 

人が立っていた。

 

でもドアの隙間からでは、訪問者の位置が悪くて、顔までは見えない。

 

唯一見える部分、足元から上半身に向かって視線を持ち上げる。

 

目に飛び込んでくるような派手なつつじ色のロングコートの隙間から、同系色のミニスカート、そこからチラりと茶色いブーツを履いた白く細い生足が見える。

 

ひと目でスタイルの良さがわかるモデルのような雰囲気の女性。

 

こんなサラリーマンの夜の巣窟みたいなビジネスホテルには、不似合いなほどおしゃれで華がある。そんな人がなんで俺の部屋に。疑問が浮かぶ。

 

ふと出張で東京に訪れたサラリーマンが、夜一人寂しくなって、そういうお店に電話して呼んだけど、それが何かの手違いで、俺の部屋に来てしまったのかと勘ぐる。そうに違いない。

 

「あの、この部屋じゃないです…」

 

 そう言って、女性に帰ってもらおうとドアを閉めようとした時…

 

「パウさん!」

 

名前を呼ばれた。

 

ごく一部の人しか知らない俺のゲーム上の名前。その親しみのある声を聞いて驚く。

 

ゴローさん?

 

ドアの隙間から顔を出して確認する。やっぱりゴローさんだ。

 

でも、なんで、なんでゴローさんが。

 

…自分でもよくわからないほどうろたえる。今一番会いたくなかった人が目の前にいる。

 

「ゴ、ゴローさん?なんで、こんなとこに…」

 

混乱して、頭が回らない。

 

もしかして…出張で東京に訪れたサラリーマンが、夜一人寂しくなって、そういうお店に電話して、そこで働いてたゴローさんが呼ばれて、それが何かの手違いで、俺がたまたま泊まってる部屋に来てしまった…。

 

それ以外にゴローさんがこんなホテルにいることは想像できない。きっとそうに違いない。こんな偶然があるのか。

 

たしかに、ゴローさんの見た目なら十分そっちの仕事も出来る。

 

昼はネイリストで、夜は…。俺がただ知らなかっただけで、ゴローさんは、もともとそっちの世界の人だったのかもしれない。

 

だから、俺みたいな男とのルームシェアも、そんなに抵抗無く受け入れることができるし、一緒にパンケーキを食べに行ったり、遊園地に行くことだって普通に出来るんだ。こういう仕事の延長として、俺に付き合ってくれてたに違いない。

 

ゴローさんの親友だって、彼氏がいるのに俺のことをそういう風に見てたし。二人して、本当はそっちの世界の人なんだ。俺にだけそのこと隠している。

 

俺とはやっぱり全然住む世界が違うんだ。

 

でもそう考えれば、今までゴローさんに対して、俺が思ってた疑問は、すべて理解できた。悲しいけど、そっちの方が納得がいく。

 

だけど、…そんなゴローさんと、俺、そういうことは、恐れ多くて…出来ないよ。

 

俺にとってやっぱりゴローさんはゴローさんだから。

 

だから…悪いけど。

 

「ゴローさん、ごめん、チェンジで!」

 

 

 

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パウさんの部屋をノックした。

 

たしかこの部屋に入っていった。部屋番号をもう一度確認する。

 

合ってる。

 

ドアに耳を近づけると、部屋の中で人の動きがする。

 

いきなり私が訪ねてきたと思うと、もしかしたらパウさんは、警戒して出てこないかもしれない。もし一人で死のうとしてるなら、私を見たら余計パニックになるかもしれない。

 

私は咄嗟に、ドアののぞき穴を指で隠した。今まで部屋の明かりがのぞき穴から点の光のように僅かに漏れていたのが、真っ暗になった。これで私だとはわからない。

 

ドアのカギを開ける音がして、ドアが僅かに開く。

 

ドアの隙間からパウさんが廊下を覗こうとして頭が少し見える。

 

やっぱりパウさんだ。

 

「あの、この部屋じゃないです…」

 

私の服装を下から見ただけで、特に私の顔を確認することもなく、パウさんはそう言った。誰かと間違えてるみたい。

 

「パウさん!」

 

そう呼んで、閉められそうになるドアを途中で引き止めた。でも内側からドアガードが掛かっていて、それ以上は、開かない。あともう少しだったのに。

 

「ゴローさん?なんで、こんなとこに」

 

ドアの隙間から私の顔を確認したパウさんは、やっぱり混乱していた。ここでさらに、後を付けてきたなんて言えば、余計、追い込んでしまうかもしれない。

 

今は、とりあえずドアを開けてもらって、パウさんと二人で話し合えるようにしないと。出来るだけ刺激しないように気をつける。

 

私は、慎重に言葉を選んだ。

 

「パウさん、聞いて!」

 

そうドアに語りかけた時、パウさんの方から返事が来た。

 

「ゴローさん、ごめん、チェンジで!」

 

チェンジ? 他の人に代わってもらいたいってこと。

 

パウさんは、やっぱり私のことを本当は全然信用してくれていない。

 

でも…だとしても、私がここであきらめたら、パウさんを一人にしたら…。嫌な想像がまた頭に浮かぶ。ドア越しにもう一度説得を試みる。

 

「パウさん、少しだけ話させてよ」

「ゴローさん、ごめん、チェンジで!」

 

他の人に代わって欲しいのはわかるけど、なんでずっと英語なんだろ。ふと疑問が浮かぶ。

 

「パウさん、私は何もしないから、大丈夫だから、安心して、だからドアもう少しだけ開けてよ、ね」

「ごめん、ゴローさんとは出来ないから」

 「出来ない?、出来ないって何が?」

「いや、…とにかく帰ってよ」

「ここ開けてもらえないと、私も帰れないから」

 

会話は、ずっと平行線のままだった。

 

ダメだ、全然部屋の中にも入れてもらえない。

 

「パウさん、わかった。じゃあ私中に入らないから、ドア越しにここにいるだけだから、それならいいでしょ」

「…ゴローさん、お願いだから、今日は帰ってよ、これで」

 

ドアからパウさんの手が出てきて、二千円渡された。

 

「パウさん、何、このお金?」

「それで今日は、帰ってよ」

「…私、別にお金が欲しい訳じゃないよ」

「みんなにそういうこと言ってるんでしょ」

 

何かすごい誤解されてる。パウさんにとって、私ってそういう風に見えてるのかな。

 

「ねえ、みんなって誰?」

「…分からないけど、お客さん?」

 

 パウさんの言ってる意味がよくわからない。

 

「パウさん、何か私のこと誤解してる? もし何か言いたいことあるならはっきり言ってよね、別に私怒らないから」

 

しばらく沈黙が続いた。もし何か今そのことを考えてくれてるんだったら、少しは私の説得が上手く言ってるのかも。

 

 「ゴローさん……」

 

え、なんだろう。話してくれる気になった。

 

「うん、何、パウさん?」

「…やっぱりなんでもない」

 

途中でやめんのかよ。なかなかにこの人、口が堅かったんだ。

 

 「パウさん、私に言いたいことってさ何? 転勤のこと、それとも仕事のこと、ドラクエのこと?それとも別のこと? とりあえず何かだけでも教えてよ。」

 

少しでも緊張が解れないかと思ってドラクエを混ぜてみた。ドラクエのことなら一番答えやすい。

 

また少し沈黙になる。また何か考えてくれてるといいけど。

 

「ゴローさん…」

「何?」

 

そろそろ答えてくれるかな。

 

「…やっぱり、帰ってよ」

 

それらの質問を一切無視して、振り出しに戻される。パウさんにとって、私って全然信用されてないのかな。

 

「…パウさん、わかった。私帰るね、また明日」

「…うん、ゴローさん、また明日」

 

家で寝る時の挨拶みたいな軽い感じで声が返ってくる。一人になったら死のうとしてる癖に、よくもそんな嘘がつけるね。こんなホテルまで取って、パウさん。

 

「パウさん、最後にさ、ちょっと顔だけ見せてよ、ね、そうしたら帰るから」

「え?」

「隙間からでいいから、そうしたら私帰るから」

「…うん、わかった」

 

そこは意外と素直に応じる。隙間から顔を出して少し私を見る。パウさんの顔を改めて近くで見るとすごくやつれた顔をしていた。覇気も無さそう。朝から今までの間に一体何があったんだろう。

 

「もういいよね、じゃあ、またゴローさん、おやすみ!」

 

そう言って、いつものように別れようとする。これから死のとしてる人がどんな気持ちでそんな言葉を私に言うんだろう。私を心配させないため。

 

「うん、またね、パウさん」

 

パウさんがドアを閉めようとした時、私は、ドアの隙間に足を入れた。

 

「ちょっとゴローさん!話が違うよ」

 

私の足が隙間に挟まって、それ以上ドアが閉まらなくなった。パウさんはドアを閉めようとつっかえになってる私の足を蹴って、外に押し出そうとする。

 

ここで負けたらパウさんを救えない。

 

力いっぱい足を隙間からねじ込む。でも男のパウさんの力に負けて徐々に足が外に戻されていく。このままだと、ドアを閉められる。

 

私は、咄嗟に右手を隙間に入れた。バタンとドアが勢い良く閉まるとき、腕に激痛が走った。自分でもよくわからない変な声が出た。

 

「ゴローさん大丈夫!」

 

私が変な声を出したので、パウさんは、心配して急いでドアを開けて廊下に出てきた。すぐに私の腕を見る。触られると強い痛みがある。挟まったところが少し青くなっているけど、骨折はして無さそう。

 

私にケガをさせたことが、本当に申し訳無いみたいで、パウさんは、何度も謝ってる。でもそんなことより、パウさんが外に出てきてくれたことの方がうれしかった。

 

「へへへ」

 

ケガをしてるのに笑ってる私を見て、パウさんは、不思議そうな表情をしている。とりあえずパウさんに部屋の中に案内される。休んでてといってベッドに座らされ、パウさんは包帯を買いに出ていった。

 

 

 

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何してんだ俺は。ゴローさんを傷つけて。

 

包帯を買いに行きながら罪悪感に襲われる。

 

こんなはずじゃなかったのに。

 

ただ、一人でゆっくり寝たかっただけ、それだけなのに、結局、ゴローさんを部屋に入れてしまった。なんであそこまで、ゴローさんは、俺の部屋に入ろうとしてたんだろう。自分の腕を傷つけてまで…よくわからない。

 

とりあえず、やくそう…じゃなかった包帯を買わなきゃ。包帯って、どこに売ってるんだっけ。

 

 

 

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パウさんが包帯を買いに行ってから大分時間が経つ。

 

近くのコンビニなら、もういいかげん帰ってきてもいい頃。

 

狭い部屋に一人残されてると、なんだか寂しくなってくる。

 

さっきまでのうれしさが徐々に不安に変わる。

 

また嫌な考えが頭を過ぎる。

 

今、この瞬間、パウさん、死にに行ってないよね?

 

自分のうれしさに囚われて、パウさんのことまで考えてなかった。

 

ホテルの部屋に入れたことはある種作戦成功だったけど、一番の目的は、部屋に入ることじゃなく、パウさんを一人にしないこと。

 

今のパウさんは一人だ。何やってんだ私。

 

ホテルの部屋から出て、パウさんを探しに向かう。

 

携帯でパウさんに電話する。右腕に痛みが走り、上手く操作できない、反対の手で操作する。やっぱり繋がらない。ずっと電源切ってるんだ。

 

もうパウさんがどこに行ったのか私にはわからない。

 

 ホテルに戻ってくるのかも…。

 

とりあえず、下に降りてホテルの前で待つ。

 

夜の寒さに腕の痛みだけが、空しく体に伝わる。

 

寒い…

 

コートのポケットに手を突っ込む。

 

何か入ってた。

 

さっきパウさんからもらった二千円だった。

 

 なんでパウさん、私にお金渡したんだろ…。

 

 

 

 

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包帯買う、お金ないじゃん。

 

ようやく見つけた24時間営業のドラッグストアのレジで途中離脱する。

 

さっきなけなしの二千円をキャンセル料として、ゴローさんに渡したことで、財布がすっからかんになっていた。

 

とりあえず駅に戻ってATMを探して、お金を下ろす。

 

財布に現金が増えると、少し気持ちに余裕が出た。

 

またさっきのドラッグストアで包帯を買って、急いでホテルに戻る。

 

ホテルに戻ると、ホテルの入り口のところにゴローさんがいた。俺があまりにも遅いから待ちくたびれて1階まで下りてきたようだ。

 

でもゴローさんは一人じゃなかった。俺の知らない男といて、すごく親しげだった。そしてその男の車に一緒に乗り込んでいった。

 

車に乗るとき、ゴローさんの腕には白い包帯が巻かれていた。

 

俺は、何も言わず、来た道をひたすら戻った。

 

 

 

 

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パウさんの帰りをホテルの前で待つ。

 

近くで車のクラクションが二回鳴った。

 

ホテルの前の道路に一台の車が停車していた。

 

「みやこ!」

 

名前を呼ばれ、一瞬、ほっとしたけど…すぐに気づく。パウさんは私をこっちの世界の名前では呼ばない。

 

声のした方を向く。道路に停まった車の運転席のウインドウが下ろされていて、男が私を呼んでいた。元彼のたかしだった。

 

こんなところで会いたくない。でも、たかしは、車から降りてきた。車のハザードランプがゆっくり点滅する。

 

「みやこ、こんなところで何してる?」

「別に…」

 

たかしは、スーツ姿だった。普段着とは違う姿に一瞬、見惚れる。…やっぱり格好良い。無意識にそう思ってしまった自分をすぐに自制する。

 

「こんな夜に一人じゃ危ないだろ」

「別にたかしには、関係ないでしょ」

「関係なくねえよ」

 

私がホテルの前にいたから、心配して声をかけたみたい。腕を怪我してるのに気づくと、近くのコンビニで包帯を買って戻ってきた。いらないと言う私に、強引に包帯を巻く。断りきれず、たかしの優しさに甘える。

 

甘えてる自分に罪悪感を感じる。

 

「みやこ、あのことだけど…」

「もう断ったでしょ」

「…わかった、じゃあ、とりあえず家まで送るよ」

「いいよ」

「心配なんだよ」

「もうほっといてよ」

「いいから送るよ」

 

でも私の腕を掴み、強引に車に乗せようとする。こういう私に有無を言わさないところが好きだった。でも今は違う…。

 

「みやこ、もしかして誰か待ってるのか?」

「…え?」

「誰かここで待ってるなら、そいつが来るまで俺も一緒にいるよ」

 

たかしにそう言われて、パウさんはもうホテルに戻ってこないような気がした。ここで待っててももう無駄なのかも。戻ってくるつもりならもうとっくに戻ってきてるはず。もうどこかに行ってしまったかも。

 

私には探せない。

 

「…わかった」

 

車に乗る前に、辺りをもう一度見回してみる、でもどこにもパウさんらしき姿はなかった。やっぱりもう戻ってはこない。たかしの車に乗る。

 

車の中で携帯を見る。連絡はずっとなかった。

 

 

 

 ------

 

 

結局、家に戻る。

 

買って来た包帯の袋をリビングのテーブルに放り投げるように置いて、自分の部屋に上がる。風呂にも入らず、敷きっぱなしの布団にもぐる。

 

ようやく一人になれた。これでゆっくり寝れる。体は疲れていて、このまま幾らでも寝れそうだった。

 

でもなぜか目が覚めて寝付けなかった。何度もさっきの出来事を思い出す。

 

ゴローさんが…あのゴロ-さんが、運転手の車で送迎されていたことを。

 

やっぱりゴローさんは夜の仕事をしてたんだ。

 

もうすぐうちに帰ってくる。

 

俺はずっと隣に夜の仕事をしてる人を住まわせて、何事も無く一緒に暮らしてたのか。なんて懐の広いヤツなんだ俺は。

 

でもさすがに、そのことを知ってしまったからには、もうゴローさんと一緒に暮らすことはできない。

 

家の風紀が乱れすぎている。じいちゃんが悲しむ。

 

明日…明日になったら、ちゃんとそのことを話そう。

 

 

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翌朝、ホテルから直接仕事先へ向かう。

 

起きても罪悪感が消えてなかった。昨日の自分が取った行動を責める。

 

電車に揺られ、会社に着く。

 

「みやこさん、昨日と同じ服じゃないですか?」

「え?」

 

第一声れいなにそう言われて、自分の失態に気づく。こういう女には、なりたくなかったのに。最近の私はどうかしてる。

 

「今、同棲してるって、言ってませんでしたっけ、昨日は別の男のところに泊まってたんですか?さすがみやこさん」

ルームシェアね」

 

説明するのもしんどい。たしかに昨日はホテルに泊まった。パウさんが取った部屋に。たかしとは、別れて何も無い。それなのに後ろめたいことをしてるように思う。

 

パウさんからは相変わらず連絡はない。どこにいるかもわからない。

 

「みやこちゃん、どうしたの今日、すごい顔してるわね」

「…いや、あはは」

「何かあったの?」

「いえ…大丈夫です」

 

 空元気でなんとか対応する。

 

いつものごとく、ねほりはほり聞かれそうになり、逃げるようにトイレに避難する。今日は、何も言いたくない。

 

ちょうど携帯のメールが入っていて、確認する。

 

パウさんからだった。

 

生きていてくれたことに、ほっとする。

 

「ゴローさん、今日、帰ってきたら、話したいことがある」

 

と書かれていた。

 

私も。

 

と即返信する。

 

いろいろ聞きたことはあるけど、顔を見てちゃんと話したい。

 

 

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俺の心配とは裏腹に、ゴローさんは、その夜帰ってこなかった。

 

俺に逃げられたから、二件目に行ったのかも知れない。

 

朝、一人で食事をして、仕事に向かう。ゴローさんも今頃仕事中かなと考える。電車に揺られながら、昨日決めたことを思い出す。

 

今日帰ったら実行しよう。

 

俺は、ゴローさんにメールを送った。

 

新宿の仕事先のお店に着く。二日ぶりの仕事。

 

大阪への転勤が決まってから、店長とは初めて顔を合わす。

 

「たくみ君、ちょっといい?」

 

仕事の手が空いた頃合を見て、案の定呼ばれた。

 

休憩室で店長と二人っきりになる。大阪の転勤の話についてだろう。

 

「ちょっといきなりで言いづらいんだけど…昨日、たくみ君、何かやらかした?」

 

転勤のことではなかった。一体なんだろう。

 

「え?別に何もしてないですけど…」

「そう、なら良いんだけど…」

「何かあったんですか?」

「いや~ね、昨日、実は、お店に警察から連絡があってさ…」

「警察?」

「”さつきたくみ”って人は、そちらに在籍してますか?って」

「え、それで、何て答えたんですか?」

「はい、いますけど…って答えたら、それで電話は切れたんだけど、何かな?と思って、たくみ君、何か心当たりある?」

「…いや、知らないですね、昨日はずっと一日中家でドラクエやってましたから」

「あ、そうなんだ、じゃあ何かの間違いか~」

「たぶん間違いだと思います」

「そう、でもね…俺も勘違いだと思うんだけど、実は…上のお偉いさんにも…そのことが耳に入って…たくみ君のこと少し調べたらしくて」

「え?」

 

 

店長からのその後の話を聞いて驚いた。

 

俺の大阪の転勤の話が急に無くなったようだ。

 

転勤の話は一応決まってたとはいえ、まだ実際には、動いていない話、いくらでも代わりは探せばいるのだろう。問題を抱えてそうな社員を重要なポジションに使わない、会社としてはいい判断だと思う。

 

でもその判断、昨日の朝なら、俺はすごく喜んだと思う。でも昨日一日で俺を取り巻く事情が、180度変わってしまった。

 

なぜなら、大阪に行く転勤話を理由に、前倒しでゴローさんには、部屋から出て行ってもらおうと思ってたからだ。どっちみち出て行くなら、出来るだけ早い方がいい。家の風紀の乱れをこれ以上許してはおけない。

 

それ位の理由でも無ければ、ひ弱な俺がゴローさんにルームシェアの解消を一方的に切り出すことなんて到底出来ない。

 

いつまででもいていいよ、なんて調子に乗って言ってしまった手前余計に…。

 

それなのに、その断る理由にしようと思っていた転勤話が急に無くなってしまった。

 

さっきは、そのことを前提にメールまで送ってしまったのだ。

 

今更、転勤が無くなりましたけど、ゴローさん、出て行ってくださいなんて言えるわけが無い。

 

でも、どうしよ…何か良い方法を考えなきゃ…。

 

 

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仕事が終わった。

 

今日は一日そのことしか考えていない。

 

怪我のこと、ホテルに泊まってたこと。いろいろ聞かれて困ったけど、そんなのもうどうでもよかった。

 

パウさんとちゃんと話すのは、何時ぶりだろう。

 

昨日一日が何ヶ月も経ったように、すごく長く感じる。

 

大阪に転勤が決まって、もう一緒にいられる時間は限られている。

 

その時間をただ大切にしたい。

 

私の望みは、それだけ。…なのに上手くいかない。

 

でも本当に私の望みはそれだけ?…

 

パウさんと離れ離れになると分かってて、それでも、”またね、パウさん”って、言って、何事もなかったようにパウさんの家から出て行ける?

 

もう帰る場所は違っても、一人で悩んだり、泣くことがあっても、パウさんと過ごした時間を思い出して、でも後悔してない…なんて思える。

 

このまま終わってしまうのをただ待ってるだけでいいの。

 

自分に正直にならなきゃ…。

 

パウさんの家の前につくと、部屋の明かりが見えた。

 

もう帰ってる。

 

家に入る前に大きく息を吸い込む。

 

玄関の扉を開けて、ただいま!と言う。

 

「おかえり」

 

待ってくれていたかのように、すぐにパウさんが出てきた。

 

顔を見て安心する。

 

いつものパウさんだ。

 

ご飯食べた?と聞かれ、まだ、と答える。

 

食事を用意してるからと言われ、キッチンに案内される。

 

キッチンのテーブルにはオードブルとかお寿司とかが いっぱいに並んでいた。壁にはちょっとした飾り付けもされていて、”おかえり、ゴローさん、いつもありがとう!”という手作りの垂れ幕まで掛かっている。

 

「何?今日、急にどうしたの、これ」

「いいから、ゴローさん座ってよ。今日は、ゴローさんに楽しんでもらおうと思って、たくさん買って来たからさ」

「え?でも、なんで、別に私お祝いされるようなこと…」

「とりあえず、話は後で、さあ食べよう」

「でもこんなにいっぱい食べきれないよ、だって二人だよ、パウさん」

「食べきれなかったら残しても良いから」

「残したらもったいないよ」

 

一緒に食事をする。何気ない話で盛り上がる。

 

今日のパウさんはいつもと少し違うように見える。すごく積極的で、こんなに話す人だったっけと思う。でもパウさんの違う一面が見れて少しうれしい。

 

久しぶりにお腹いっぱい食べる。もうこれ以上は食べられない位。ダイエットとか、今日はもう関係ない。せっかく用意してもらったのに、残したらもったいない。

 

でも結局、全部は食べきれず、ラップで包んで冷蔵庫にしまう。

 

食事は豪華だったけど、いつもと変わらない。二人の時間。

 

”いつまででも居ていいよ”

 

パウさんにそういわれた時、胸の奥がじーんとした。

 

そんなこと他人から言われた事ない。

 

しかもパウさんとは、ルームシェアしてるだけで、別に付き合ってる訳でもないのに。

 

なんだろうこの気持ち。

 

だからこういう時間がもっと続いて欲しいと思ってた。いつまでも…ずっと。

 

でももう終わっちゃうんだよね。

 

「なんでゴローさん泣いてるの?」

「え、泣いてないよ」

「泣いてるよ、どうして?」

「泣いてないって…」

 

そんなつもりじゃなかったのに、すごい空気を悪くしてしまった。パウさんは、どうして良いかわからずにいる。

 

「…ご飯も食べたし、ゴローさん、ドラクエやらない?」

 

気まずい雰囲気にパウさんが提案する。

 

私も賛成して、リビングで二人で顔を合わせてゲームする。

 

二つの部屋で別々にやるよりこっちの方が断然良い。 

 

盛り上がってパウさんとハイタッチしたとき、痛みで右手をかばう。それに気づいてパウさんが心配する。

 

「あ、…昨日は、ごめん」

「別にいいよ」

「…包帯したんだね」

 

私の袖の隙間から隠してた白い包帯がわずかに見える。

 

「あ、うん…」

 

パウさんのその言葉が胸に刺さる。

 

ふと、居間のテーブルに置かれた買い物袋が目に入った。中には、包帯のようなものが見える。パウさんも買いに行ってくれてたんだ。…でもなんで、昨日来てくなかったんだろう。もしかして、たかしと一緒のところを見てた? 

 

急に後ろめたい気持ちになる。

 

でも、そのこともちゃんと話さなきゃ。

 

「パウさん…昨日のことだけど」

「え?」

 

パウさんがすごく驚いたように反応する。

 

「なんで一人でホテルに泊まったりしてたの」

「…あ、え~っと、なんて言うか、…ゴローさんは、なんでホテルにいたの?」

 

質問を質問で返される。

 

「私がホテルにいた理由?」

「うん」

「それは…」

 

 駅からパウさんの後を付けてたなんて言って大丈夫だろうか。少しだけ考える。

 

「お仕事でしょ?」

 

 パウさんが困ってる私に気を使って先に答える。

 

「…え、あ、うん」

 

事実とは違ったけど、その方がパウさんに取って都合がいいなら、今はそうしておこう。優しさに甘える。

 

「やっぱり」

 

パウさんは急に納得した。

 

「ゴローさんは、いつ位からそういう仕事をやろうと思ったの?」

 

そういう仕事?…ネイルの仕事のことかな。

 

「え、たぶん3年位前かな」

「そんなに」

「うん、私こう見えて、もう結構長いんだよね」

「そうなんだ…へえ」

 

そう言って、パウさんはすごい考えてる。

 

私の仕事にそんなに興味あったっけ。

 

「それより、パウさんはなんで一人でホテルに泊まってたの?」

「え?それは…」

 

急に真剣な顔になった。答えてくれる。でも、まさか、俺、実は死のうとしてたんだ、なんて急に言わないよね。こんなときにまた空気が悪くなっちゃう。自分で質問しといて質問の間違いに気づく。なんとか他の気軽な話題に変えよう。

 

「あ、もしかして、パウさん、ホテルに女の子呼ぼうとしてた?」

 「え?」

「絶対そうでしょ、別に隠さなくたっていいよ、私は大丈夫だから、パウさんも一応男だもんね」

「一応?」

「いや、あのそういうことじゃなくて…生物学的に見るとパウさんは男だなって、私って、ほら女でしょ」

 

何の話?そもそもそれを女の私が言う話。完全に話題を間違えた。自分で言ってて嫌になる。

 

「あ、ゴローさん、そういえば、少し前に、友達なんだから、困ってたことがあったら私で良ければ相談に乗るよって言ってくれたことがあったよね?」

「え?、あ、うん。何?パウさん私に相談したいことがあるの?」

「うん、まあ相談って言うか…ちょっとゴローさんの意見を聞きたいなって」

「あ、全然いいよ何?」

 

パウさんに頼られてる私。少しは信頼されてるのかな。

 

「実は…え~っと、あ、職場の女の子の話なんだけど…」

「え、何?」

 

職場の女の子?、え、やっぱり気になってる子いたの?パウさん。

 

「…俺的には、リアルで話すの苦手だけど、その人とは普通に話せるって言うか、結構友達みたいに仲良くしてもらえてるっていうか。良い関係だとは思う。でも、なんか俺には言ってくれないけど、その人には秘密がありそうなんだよね」

「秘密?」

「うん、ずっと隠してることがあるんじゃないかなって」

「どういうこと?何を隠してると思うの」

「わからないけど、たぶんお昼の仕事とは別に、夜の仕事もしてるんじゃないかって、なんとなく最近そう思うようになった」

 「夜の仕事って、キャバとか?」

「いや、もっと…こう」

 「風俗?」

「…うん、たぶんそっち系」

「風俗か~それ厳しいな…」

 

まー今の時代、そういう子が職場にいても不思議じゃないよね。

 

「それで、パウさんはどう思ってるの?」

「どうって、出来ればやめてもらいたいけど、でも俺、別にその人の彼氏でもないし、そんな立ち入ったこと言う権利ないでしょ、何かそうしなきゃいけない理由もあるのかもしれないし」

「う~ん、それ難しいね」

「うん、だからゴローさんの女の人の意見を聞きたいなって、…もし、その人の立場だったとして、男友達から夜の仕事やめなよって言われたらやめる?」

「うんどうかな…」

 

そういう状況になったことがないから想像しにくいな。

 

「その男友達のこと嫌いになったりする?」

「う~ん」

 

仮に言われても嫌いにはならないかな。どうだろう。わからない。

 

「別に彼氏でもないのに口出さないでよ、関係ないじゃんっとか思う?」

「それは、…そう思うかもしれない」

 

友達の度合いによるかもしれないけど、職場レベルの男の人に言われたら、関係ないでしょって思うかも。

 

「やっぱり、そ、そうだよね、別に彼氏でもない人から言われても、そういう仕事やめたりはしないよね、わかった、…そうだよね、ありがとゴローさん」

 

パウさんは、そう言って、本当に残念そうに私の意見に納得した。でもすごい心配してるのは伝わってくる。私ももう少し考えてみる。

 

「あ…でも」

「え?」

「でも、その子がパウさんのこと、どう思ってるかによるかもしれないよ」

「どうって?」

「もし好きなら、…好きな人に言われたら、やめると思う」

「え、それ本当?」

 

パウさんの表情が急に明るくなる。

 

「うん、私なら好きな人が嫌だと思うことはやめたいと思う」

「でも、ゴローさん、その人が俺のことを好きかどうかなんてわからないよ」

「それはそうだけど…でも一緒にいたらなんとなくわからない?この人私のこと好きかも?って」

「それはゴローさんだからであって、俺には当て嵌らないよ」

 

いつもながら、すごい卑屈。

 

「そんなことないと思うけど、でも女なんてさ、好きになってるかどうかなんて見ればすぐにわかるよ、あ、この子今恋してるなって」

「それって、どういう風にわかるの?」

「う~ん、なんて言うか、好きな人を見る時の目がキラキラしてるっていうか、ハートみたいになってるよね」

「それマンガの中での話でしょ」

「…でも本当にそういう感じに見えるから」

「へえ、そうなんだ」

 

 そう言いながら、パウさんが私の目をまじまじと見てきた。

 

「う~ん、よくわからない」

 

しばらく無言で見つめられてなぜかドキっとした。

 

「いや…私は違うから、パウさん」

 

自分でもよくわからず慌てて誤魔化す。もしかして今、私の目、一瞬ハートみたいになってないよね。この能力、人のことはわかるけど、自分のことはわからない。

 

「あ、ごめんなさい」

 

 パウさんが謝る。私の判別法が自分にはできないとわかると、また少し考え始める。

 

 「パウさん、そんなに心配なら、やっぱりその人に直接言ってあげたほうがいいよ」

「でも、その事を言ったことで、今までの関係が悪くなったり、もしかしたら関係そのものが終わってしまうかもしれないんだよ、それでもゴローさんは言った方がいいと思う?」

 

それは、そういう時もあるかもしれないけど。

 

「でも、パウさんは、その人のことが心配なんだよね」

「…うん」

「じゃあ、言うべきだと思うよ、例え嫌われたとしても、勇気を出して」

「…そうか、そうだよね」

 

パウさんも納得したみたい。少し笑顔になる。

 

「もし、その人に嫌われたとしても私が付いてるから」

 

大丈夫だよパウさん。私も応援してるから。

 

「…わかった、そうするよ、ゴローさん」

 

私も少しはパウさんの役に立ったかな。なんか少しでも喜んでもらえると、相談に乗った甲斐がある。

 

そう思ってると、なぜかパウさんは、自分の体を私の方向に向けた。

 

「ゴローさん、夜の仕事やめてくれる?」

 

パウさんの言葉は相手を諭すような、どこか悲哀に満ちた言い方だった。

 

ずっと今まで言おうとして、ようやく言えて、ほっとしたような感じもあった。

 

今まで一人で悩んで苦しんできたような、そういう風にも思えた。

 

でも、なんでそれを私に言うの?

 

 

 

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ついにゴローさんに言ってしまった。

 

本当はこんなはずじゃなかった。

 

ただ、お祝いして、喜んでもらったら言うつもりだった。

 

ただ出て行ってくれと。

 

でも、ゴローさんの涙を見たら、何も言えなくなった。

 

だけど、疑惑を追及するほど、事実は黒に近づいた。

 

でもだからと言って、出て行ってくれとはもう言えなかった。

 

ゴローさんの顔を見ると、やっぱり出て行って欲しくない自分がいる。

 

だからせめて、夜の仕事だけはやめて欲しい、ただ、その望みに賭ける事にした。

 

彼氏でもないのにおこがましいけど。

 

でも辞めてくれる条件は、ゴローさんが俺のことを好きかどうか。

 

ゴローさんが俺のことをどう思ってるかもわからないのに。俺のことを好きかどうかなんてわかるはずもない。いくらゴローさんの顔を見ても…。

 

だって、ゴローさんが俺の事を好きになる理由が何ひとつ見つからないから。

 

俺がゴローさんを好きになる理由は、幾らでも見つかるのに、ゴローさんが俺の事を好きになる理由を俺はひとつも探すことができない。

 

だから、ゴローさんとは最悪の別れになる。

 

残念だけど、だからすごく悲しいんだ。

 

ここでゴローさんと別れることが…。

 

「ちょっとパウさん、どういうこと?」

 

なぜかゴローさんは、俺が予想していた展開とは違った反応をした。

 

「私が夜の仕事してるとずっと思ってたの?」

 

”別にパウさんには関係ないでしょ、一緒に住んでるからって、彼氏ずらしないでよ。”

 

そういう風に言われるものだと思っていた。そして、そのままゴローさんは、ウチから出て行ってしまう。さようなら、ゴローさん。

 

でもどうも違ったみたい。

 

「パウさん、聞いてる?」

「え?」

「”え?”じゃないよ、私、夜の仕事してないよ」

「ち、違うの?だって、あんなホテルにいたし、黒いスーツ来た運転手が迎えに来てたのだって、俺見ちゃったから」

「運転手?…あ、あれは、元彼!」

「いやいやいや、そんな言い訳、ゴローさん、俺騙されないよ」

「いや、騙してないから」

「そ、その、だって、あんなビジネスホテルにゴローさんが居たのだっておかしいし」

「それは、駅でパウさんを見かけて、後を付けてったら、たまたまそこにパウさんが入っていったから」

「嘘付かないでよ、そういうお店から呼ばれて、来てたんでしょ」

「そういうお店?」

「なんか、わからないけど、そ、そういう男の人から呼ばれたら女の子が行くみたいな夜のお店あるでしょ」

「デリヘル?」

「そういうやつ」

「なんで私が、デリで働かなきゃいけないの」

「それは知らないけど…お金に困ってるの、ゴローさん?」

「実家離れて、一人だからそんなに余裕はないけど、そこまでじゃないよ」

「じゃあ、何か欲しいものがあるの?」

「無いよ、…ちょっとパウさん、私が夜の仕事してるの前提で話すのやめて!」

「いや他にもあるから、お、俺と、一緒に遊園地に行ってくれたり、ゲームだって同じ部屋でこんな風に一緒にやるなんて、そんな仕事でもしてなけば、普通の女の子には絶対出来ないよ」

「だって友達でしょ」

 

都合の良いときだけ、友達って。ゴローさんの言葉はどこか信じられない。俺はその場に立ち上がってさらに続けた。

 

「いや、友達でもそこまでしないよ、そもそも好きでもない若い男女がさ、こうやってルームシェアしてること自体絶対おかしいよ」

「最初にも行ったけど、パウさんが最初に誘ってきたんでしょ」

「そ、それはそうだけど、いや、でも絶対、すぐ出て行くと思ってたから!」

「だって、”いつまででも居ていいよ”って、パウさん言ってくれたから」

「そ、それは言ったけど…でもなんでずっといれるの?こんな俺と一緒に暮らすの嫌じゃないの?」

「別に嫌じゃないよ。前にも言ったけど、私にとってパウさんは貴重だから」

「そ、そんな風に言えば、俺を操れると思ってるの、ゴローさん!」

 「操る?ちょっと、パウさん、落ち着いて、別に私パウさんを操ろうなんて思ってないから、パウさんはそのままでいいから」

 

ゴローさんになだめられ、少し冷静さを取り戻す。自分でもわからない位、なぜかヒートアップしてしまった。何か適当な話題を探す。

 

「ゴローさんは、俺のことどう思ってるの?」

「どうって?」

「もし、俺の転勤が無くなったら、ずっとこのままウチに居てくれるの?」

「そのつもりだったけど、でも転勤が決まったでしょ」

「いや、もうその転勤の話は無くなりました」

「何?どういうこと?転勤無くなったの」

「今日付けで転勤が無くなりました。」

「何、パウさん転勤しなくていいの?…そっか~。パウさんにとっては出世から離れちゃって残念だと思うけど、でも私としては良かったかな、また一緒に暮らせるね、パウさん」

 

ゴローさんは、俺の転勤が無くなったことを知って、はじめは気を使ってくれてたけど、俺も転勤したくなかったと伝えると、それからは気持ちを隠さず、すごく喜んだ。

 

「パウさん、今日は飲もうよ!」 

 

その後、変なわだかまりは、しばらく残ってたけど、でも今までみたいに一緒に暮らせることがわかったから、お互いそれ以上あえて問題に触れることはしなかった。

 

俺もゴローさんの夜の仕事をしてないという言葉を信じることにした。

 

ただ、一つだけ、後悔があるとすれば、隣で楽しそうにゲームするゴローさんは、俺のことどう思ってるんだろうか?というその疑問の答えだけは、ずっとわからないままだったということ。

 

「何?パウさん、なんか私の顔についてる?」

 

 

ハートの目になってたらいいんだけど…。    END

 

 

 

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<終わりに>

 

 

書き始めは、これほど長くなるはずではなかったのだが、ドラマ版「ゆうべはお楽しみでしたね」の世界観に入り込んでたら、意外と楽しく、このページだけで(小説分だけでも)、20000文字以上も費やしていた。

 

結局、創作してみて思ったのは、5話の中盤の駅で見送る段階でたくみが行動を起こし始めると、気持ちの盛り上がりがやや足りず、ハッピーエンドの着地が、ドラマほど進まず、微妙なところに落ち着いてしまう。※書き方次第ではあるけど。転勤しなくなってしまう要素を入れると、やや尻つぼみしてしまう。

 

やはり、本編のドラマにあるように、大阪への転勤のタイムリミット感と、元彼たかしの邪魔は二人の告白への決断を誘う上で、非常に良いフックになっている。

 

創作部分では、あえて告白しますというわかりやすいシーンを設定せず、普段の会話の延長で気持ちを盛り上げて強引に恋愛話に摩り替えて行くという、やり方をラストにやってみたが、若干終わり方が不発だった。

 

ちなみに、今回は、たくみから行動を起こすバージョンの方を創作したが、このページの導入にも書いたが、もう一つの元彼たかしを振った後のみやこバージョン(たかしのパウさんお礼無し編)というのも書いてみたい願望がある。みやこが告白するパターンですね。

 

ただ、最近、「ゆうべはお楽しみでしたね」の原作コミックを手に入れたので、そちらの内容を確認した上で、新たに書きたい気持ちが残っていれば、内容をそちらの部分を反映して、みやこバージョンを考えてみたい。このページの創作バージョンは、ドラマのみの内容だけなので。

 

っというか単純に今は、原作コミックを無性に読みたい衝動に駆られています。自分の心情解説があってるかどうか、その辺を確認したい。