ドラマ「ゆうべはお楽しみでしたね」第2話のあらすじ(心情解説)
続いて、ドラマ「ゆうべはお楽しみでしたね」の第2話の解説に入っていきます。
1話までのあらすじは、以下を参考にどうぞ。
この第2話の大まかなあらすじ(出来事)は、パウダー(たくみ)とゴロー(みやこ)のルームシェア開始後にみやこの親友あやのの来訪と、みやこの一人の誕生日がやってくる…になるかと思います。
この第2話は、心に染みるシーンがありますので、個人的に結構好きな話でもあります。その辺も脚本家や原作者を差し置いて、登場人物の心情に勝手に入り込んだ目線で、心情を解説していきたいと思います。
では、第2話を見ていきますが、実は、この第2話は、第1話から日付がつながっていて、リアルな時間の経過を感じることが出来ます。
どういうことかといいますと、
仮にみやこがたくみの家に引っ越してきた日を○月1日とした場合。
1日目 みやこが引っ越してくる。その夜にたくみは体調を崩し始める。
2日目 みやこは、朝から仕事に行くが、たくみは、自宅で熱を出してそのまま家でずっと寝ている。夜にみやこが仕事から帰宅してきて、ソファで寝ていたたくみを見つけ、おかゆ(せかいじゅの葉)を出す。
3日目 翌日の朝、風が治ったたくみは、リビングでみやこと顔を合わせる。ここからが第2話になっていると思われます。
ちなみに具体的に日にちという概念はありませんが、ドラクエ上ですぐに生き返る”せかいじゅの葉”(ドラマでは、おかゆ)という効果を考えると、せかいじゅの葉を使った次の日には体調が治っていると考えられます。
日にちで言うと、2日目の夜にせかいじゅの葉なので、3日目の朝には治るということになります。
その理由により、第2話は、リアルに出会った最初の日から数えると、3日目の話と考えるのが妥当です。
<午前7時10分にゴローが起きてくる>
さて、三日目のこの日は、たくみも仕事があったのか、みやことたくみの両方とも朝早く起きています。
ここでの会話は、たくみの体調の話と、たくみに彼女がいるかどうかというプライベートな会話があります。
たくみは、みやこが急に自分に興味を持った質問をしてきたので、一瞬自分に好意があるのかと勘違いしますが、ルームシェアしてることによって、たくみに彼女がいた場合の三角関係の誤解による修羅場を心配してただけで、特に好意がある訳ではなかったことを会話からすぐに察します。
昨夜のみやこの優しさに触れていたたくみは、一瞬心が動きましたが、やはりそんな訳はないと、いつもの現実に引き戻されたという感じです。
またその後、安易にゴローに彼氏の有無を聞いてしまったことで、
「はあ、ねえ、なんでそんなことパウさんに言わなきゃいけないの、ってかそういうの気をつけたほうがいいよ、セクハラになるからね」
とゴローから強い拒絶と不快感を示され、理不尽に傷つきます(笑)
このシーン、理不尽といえば理不尽ですが、たくみとしては、多少調子に乗ってしまった感は否めません。自分も聞かれたから、相手にも聞いて大丈夫という理屈ですが、男と女ではどこか事情が違うような気がします。
そもそも、その前の話の時点で、みやこがたくみに男性として興味がないというのをあきらかにしてるので、それ以上無闇に女性のプライベートに踏み込むのは、トラウマ女子高生タイプのみやこの性格を考えれば、ただただ危険でしかありません。
ちなみにこの1シーン、製作側としては、意図的に笑いを取りにいってると思われます。あきらかに度が過ぎたコントチックな冷たい演技です。※このシーンの他にもゴローがパウダーにあえて冷たく接するシーンが何箇所かありますが、どれも意図的です。
短いやりとりの隙間に、三行(三呼吸)ほどもありそうな長いセリフを早口で枠に入れ込むように畳み掛けています。「カット!」と撮影が止められた後にそこにいたスタッフや俳優陣が笑いをこらえている絵が浮かびます。
っというか。このシーンは、何テイクか取って、一番、パウダーが傷つきそうな言い方が出来たのをあえて選んでいると思います。監督が本田翼にもっとここは強めに言っちゃって大丈夫だからと催促してる感じも目に浮かびます。
話を戻しますが、さすがに3年付き合ってた彼氏と半年前に別れて、まだ心の傷が癒えてないといっても、みやこが自己防衛としてここまで強くたくみに対して、当たるのはどうかという気はします。
まーでもこんなすぐ怒る女子高生(10代)は、リアルに学校生活にいて、クラスを牛耳っていたりします。さすがに社会に出れば大分減ってきますけど。
<仕事場でのお互いの本音>
さて、少し脱線しましたが、その後、たくみとみやこは、お互い仕事に行き、仕事場でドラクエから始まったルームシェアの会話に花が開きます。
アニメイトで店員として働くたくみは、店長からドラクエで女とルームシェアとかそんなことがあるのかよ、とうらやましがられますが、みやことの朝の理不尽な会話のこともあったたくみは、ルームシェアの相手(みやこ)は、”すごく苦手なタイプで全然合わない、相手もたぶんそう思ってる”、と本音を口にします。
しかし、店長から、(女とルームシェア出来るなんて)最高じゃんと言われ。また、同じ柵に入れられたオス馬とメス馬の生態を引き合いに出し、始めちゃえよ、と彼女(ゴロー)に対してアプローチしてみるようけしかけます。
たくみは、朝のことや出会った時のみやこに対してあまり良い印象が無いので、店長に最高と言われても、そうなのか?とまだ疑問符が浮かんだままです。
<みやこの方は、ルームシェアは最悪だとは思っていない>
一方、ネイルサロンで働くみやこの職場でも、同じ話題になるが、たくみの方の会話とは異なり、その状況は”最悪”という言葉で始まります。
男は、なによりもまずイケメンでしょと、外見をとにかく重視する栗山(雇われ店長?)の最悪だねという感想にみやこは、「いや、まあ、最悪ってことではないですけど…」と否定します。
(最悪じゃないってことは、意外とルームシェアの相手は)かっこいいのと聞かれると、「う~ん…いや、まあ優しそうな感じはありますけどね」とたくみに対して優しい印象があると答えます。
その後も、私は絶対無理、せめてイケメンと、外見にこだわる栗山に対して、「まあ、でもゲーム内ではずっと知り合いだったわけですしね~」ともともと知り合いだったから、そんなに外見を気にしてないという感じも強調します。
パウダーに朝からセクハラまがいの質問を受け(半年前に別れてまだ傷心中の身でもあり、今、現在、彼氏がいないという女性として非常に寂しい状況を再確認させられる質問をされて)、朝から気分が悪かったみやこですが、そんなたくみに対しては、悪い印象を持ってなく、また悪口を言う訳でもないので、意外とたくみとの関係を大切にしている姿勢として受け取れます。
むしろここの会話から彼の存在を否定しない程度に彼のことを庇っているようにも見えます。
みやこにとって、ドラクエの世界(ネット仲間)というのは、リアルな仕事仲間に見せてる仮の自分とは、また異なる本質的な自分(仕事仲間にはそこの説明しづらい)を置いておける秘密基地(場所)でもあるようだが(※のちのストーリーで明らかになる)、ここで仮にみやこが、一般的に悪いやつではないパウダーの存在を、頭ごなしに否定していくようであれば、本当の意味でみやこは、ネット(仮想世界)の世界の住人ではなかったといえるでしょう。
みやこにとって、たくみは、そういう意味では、顔が見えないオンライン上で知り合った仲ではあるが、1年以上ゲームを通して遊んできた信頼関係の実績がしっかりリアルの関係にも同じように積みあがっていたといえます。
<帰宅時に河川敷の遊歩道でばったり遭遇>
この日はお互い、仕事が早番だったのか、日がまだ沈まない夕方のうちに仕事が終わります。
自宅に帰る河川敷の遊歩道で、みやこは、たくみが目の前を歩いてるのを見つけて、後ろから静かに近づいて、大きな声で名前を言って、脅かします。※子供か!
仕事帰りにみやこのことを考えながら歩いていたたくみは、初日のみやこを思い出しながら、やはり自分を傷つけるトラウマ女子高生に自分からアプローチするなんて、絶対にありえないと店長の行っちゃえよ!提案を頭の中で振り払います。
そんな考え事をしてる時に、急に後ろからみやこに脅かされ、怯えるほど驚き、学生時代のトラウマ女子高生からのちょっかいされた記憶がよみがえりますが、その後、体調を心配されると、再びドラクエ上の優しいゴローの一面を垣間見て、気持ちが揺れます。
一緒に住んでるんだから、何か言いたいことがあったらはっきり言ってよね、というみやこに対し、まだ距離があるので、その胸の内を明かすことは出来ません。
しかし、みやこに電話が掛かってきて、「はい、もしもし?」と大きな声で出て、周りの存在を全く気にせずに友達と大きな声で会話を始めるみやこは、やはり、トラウマ女子高生で、たくみにとって、近づきにくいタイプです。
みやこの友達が近くまで来て家に寄りたいけどどうかと迫られると、本心は来てほしくないのに、頼みを断れず、結局、許可してしまいます。内心は嫌だなという思いです。
<みやこの親友のあやのが家にやってくる>
みやこの親友”あやの”がやってきた。
家に迎え入れるなり、臆面もなく、ずかずかと部屋に入ってくるみやこの親友に、たくみは、トラウマ女子高生(みやこ)の親友もやはりトラウマ女子高生なんだと、嫌悪感と戸惑いを隠せません。
あやのもみやこと同様、たくみが仲良くなれそうな(内気な)タイプではありませんでした。
みやこにあやのを紹介されるも、家を見たらすぐに帰ってくれるものと思って(寄るだけのつもりで)、たくみは、許可したつもりが、あやのは買い物を携えてきて、急遽、三人で鍋をすることになります。
すごく苦手なタイプで全然合わないみやこと、その親友もまた合わなそうなタイプの女性二人に囲まれ、自分の家なのに借りてきた猫のようになってしまったたくみは、何ヶ月かぶりの鍋を食べても全く味わうことが出来ません。
さらに、まだ会って間もないのに、可愛い顔してるね~と、ちょっかいを出してくるみやこの友達(あやの)にも困惑します。
その様子を見てたみやこは、また、あやのがいつもの癖で、見境に無く男(友達)にちょっかいを出し始めたと、すぐにたくみとの間に入って、あやのを引き剥がしにかかります。
もしあやのとパウさんが付き合うことにでもなったら、会社の人にもうなんて説明して良いかわかりません。今ルームシェアしてることでもすごい説明が大変なのに、そこに親友も加わってきたらと思うと…。
みやこは、今のあやの彼氏の近況を聞き、あやのに彼氏がいることを思い出させます。
一方、たくみは、しばらくみやことあやのの二人の恋愛話を聞き入りながら、やはり自分とは住む世界が違うと実感、自分に恋話を振られると早々にトイレに逃げ込みます。
<みやこがいなくなり、あやのがいる>
たくみがトイレから戻ってくると、みやこが電話で席を外していて、その場は、みやこの親友の”あやの”と二人っきり。
お酒の勢いもあり、妙な気分でたくみに興味を持ち始めたあやのは、ねえ、部屋見せてよ…と言って、強引にたくみの部屋に乗り込んでいきます。
たくみの部屋の物をかき混ぜつつ、みやこが元彼と電話して席を外してることを理由に、たくみの部屋に居座ると、隙を見てたくみに襲いかかりますが、その半ばで睡魔が来て、たくみの部屋で、あやのは眠ってしまいます。
「この人、むちゃくちゃだ」
みやこに対しては、苦手なタイプで全然合わないと苦手ながら、頭で整理できていたたくみだったが、その親友のあやのに関しては、もう言葉で説明することすらできなかった。
<みやこが電話で泣いている>
あやのの魔の手からなんとか解放されたたくみは、あやのを置き去りにして、自分の部屋から1階に戻ろうとすると、階段のところでみやこの電話の話声が聞こえてきた。
「だから誕生日一緒に過ごすとか、今更ありえないでしょ。…ううん、それは無理、…だって、もう終わったじゃん、私たち」
その声は、これまでに聞いたことがないほど深刻な声で、はじめて泣いてるゴロー(みやこ)の姿を知って、たくみは動揺します。「みやこ、まだ未練があると思うんだよね…」というゴローの親友(あやの)”のさきほどの言葉が、たくみの胸に刺さります。
電話を終えたみやこと廊下でばったりあっても、これと言った言葉は見つからず、率先して話題を変えるみやこは、たくみの部屋で寝てしまったあやのを起こしにさっさと向かいます。
ここで寝ないで、自分の家で寝てとばかりに、 まだ酔っ払ってるあやのをタクシーに乗せて見送った二人は、家に戻って、鍋の後片付けを始めます。
あやのが居なくなると、今日はいろいろとごめんね、と謝るみやこに、たくみは、「電話、大丈夫だった?」と逆に心配します。あの電話の後から、みやこの様子はいつもと違っていました。
みやこは、今度の日曜の私の誕生日、一人で過ごすの寂しいだろうから一緒に過ごそうと元彼から誘われたことを明かします。
「もうさ、そんなんで振り向くと思ってんのかな、軽く見られてるよね。私」
みやこと元彼のたかしは、三年ほど付き合っていましたが、半年前に別れて、現在至ります。
みやこの方がたかしの事を好きだったのに、(ネイリストの)仕事が忙しく、すれ違いが多くなり、会えなくて関係がピリピリするようになってたときに、唯一デートできる日があったのに、その日がドラクエの大型アップデート日で、みやこがそちらを優先したことで、結局、みやこは、ドラクエと俺とどっちが大事なんだよ?と言われたかどうかはわかりませんが、みやこは、好きだったたかしにフラれてしまいました。
三年も付き合ってたのにそんなことで、一方的にフラれるなんて、みやこは、しばらく、たかしとの別れを受け入れることが出来ませんでした。
何度かたかしに連絡してみても、”みやこはさ、ドラクエと俺と結局どっちが大事なんだよ”、と聞かれても、あの日はたまたま大型アップデートの日でさ、といくら説明しても、その重要さがドラクエをしてない、たかしには全く理解してもらえません。
たかがゲームだろ!という、たかしのその言葉がみやこの心を傷つけます。そんなやりとりが、しばらく続くうち、みやこは、たかしのことはもうあきらめよう、と思うようになりました。
それが、最近になって、たかしの方からやり直そうと言われ、気持ちはすでに整理できてると思っていたのに、誕生日を一緒に過ごそうよと優しく言われると、たかしに振り向きたくなる自分がいるのをどうにも否定することができません。
でも、もう決めたことだからという理由で、たかしのことをなんとか断っています。結局、またやり直しても、ドラクエでケンカするのは目に見えているからです。
そんな事情を知らないたくみは、みやこの言葉だけでは事情を理解できませんが、ただ、一生懸命寂しさを振り払おうと必死に強がって見せていることだけは伝わってきます。
そこは性格はどうあれ、中身は失恋で傷ついている普通の女の子なんだと感じてしまいます。
「っていうか一人の誕生日とか全然気になんないっつうの、ねっ。」
ずっと誕生日を一人で過ごしてきたたくみにとって、誕生日を一人で過ごすことに対して、特別な感情はありません。涙も出ません。みやこからそのことに対して、同意を求められても、「うん」と頷く以外に、本当になんて返していいかわかりません。
その夜、隣の部屋からすすり泣く声が聞こえてきます。
さっきは、あんなに強がっていたはずのゴローさんが…一人になると泣いていました。でも自分には何も出来ません。何をして良いのかもわかりません。
とりあえず、ゴローさんが泣いてることが、隣にいるのに、自分には何も出来ないことが、ただ、すごく悲しいのです。
<みやこの誕生日の日>
あれから数日が過ぎたある夜。
-午後9時20分。
「わたしの日曜が終わってく~」
後輩のれいなが、仕事が終わって、お店から帰るときに急に天に向かって嘆いた。
れいなはちょっと変わってるところがあるけど、もう付き合いも長く、そういう一面を見ても、今ではいちいち反応しなくなった。
でも、仕事の片づけで、まだ帰れそうにない私は、そのれいなの言葉を聞いて、少しの間、忘れてた事をまた思い出すことになった。
「わたしの誕生日も終わってく」
れいなの言葉を聞いて、頭の中の奥に隠れていた小さいみやこが、慌てて飛び出してきた。誕生日がもう終わるよ~、と知らせてきた。
今日はわたしの誕生日。でもこの後に予定はない。一年前ならたかしと一緒に過ごしてたのに。今の私は一人。
家に帰ってもどうせ一人だから、仕事を頼まれた時、率先して引き受けた。仕事をしてれば、忘れられると思ってた。でもまた思い出した。わたしの誕生日。
逃げても後からずっと追い駆けてくる。一人のあたしの後を追うように。
早く片付けを終わらせて家に帰ろう。
先に上がる店長とれいなを笑顔で見送り、店の戸締りをしてから一人で店を出る。
お店の電気を消した瞬間、し~んとして他に誰も居ない真っ暗なお店の中で一人きりになったとき、なぜか無性に寂しさがこみ上げてきた。
普段はそんなこと思わないのに…。
人がまばらになった電車に揺られ、家族のもとに帰っていくであろう人達の背中を見ながら、ようやくルームシェアしてる家に戻ってきたときには、もう今日も残りわずかになっていた。
時間を気にすると、なぜか押してもいないのに、タイムリミットを告げるカウントダウンが頭の中で動き出す。今日はあたしの誕生日。
家の玄関の前で家の鍵を探したとき、ふとパウさんのことが気になった。いつもならもう帰ってる時間。今、何してるのかな。
「あやの、今度の日曜の夜だけどさ…」
「ごめん、みやこ、日曜の夜、あたし予定入ってたんだ」
「あ、そう、…うん、わかった、じゃあまた今度」
「…あれ、そういえば、みやこ、今度の日曜ってみやこの誕生日だっけ?」
「え?、いや、…まーそうかな」
「もしかしてそれで誘ってきた?今、みやこ彼氏いなくて一人だから」
「いや、別にそういうわけじゃないよ、あやのとも、ほら、久々に二人でゆっくり食事でもしようかなと思ってさ」
「え~、何、急に改まって、みやこ、おかしいよ」
「別にいいでしょ」
「あ、でも、ごめん、みやこ、その日はちょっと」
「うん、わかってる」
「あ、でも、大丈夫?、みやこ一人で」
「え?、あ、別に大丈夫だよ、それ位、たまたま時間が空いてたから、どうかなって思って誘っただけだから」
「そう、なら良かった。」
「うん」
「あ、でも、みやこ、今一人じゃないじゃん?」
「え? 一人じゃないって何?」
「ほらだって、今、家にたくみ君いるじゃん?」
「え、パウさ…?」
「そう、だからあたしがいなくても別に大丈夫でしょ」
「いや、別にたくみ君は、そういうことじゃないじゃん、部屋借りてるだけだし」
「いいからいいから、たくみ君に一緒に過ごしてもらいなよ、じゃあ、あたし今忙しいから、またね、みやこ」
「えっ、あ、ちょっと…」
でも、あやのがうちに来た日、私が元彼の話をした後から、パウさんは、どこかよそよそしくなった。何か腫れ物にでも触るように、私のことを避けている。
いつもならゲームを一緒にやるのに、最近は、何か忙しそうにしていて、誘っても相手をしてくれなくなった。
隣にいるのに何をしてるのかわからない。今何を考えてるのかも。半年前に別れた元彼のことをまだ引きずってるから、重たい女だと思われたのかも。
そうじゃなければ、あたしの相手をするのもいいかげん、めんどくさくなった?あれからずっと居座っちゃってるし。早くわたしには出て行って欲しいんだもんね。
「ゴローさん、何時ごろ引っ越しされるんでしょうか?」
玄関の前で一呼吸置いてから、扉を開けていつもの様に「ただいま!」と言ってみた。でも、今日はなぜか返事が返ってこなかった。
いつもなら、遠くで「おかえり~」という弱弱しい返事が聞こえてくるはずなんだけど。改めて、階段を上がりパウさんの部屋の前で、ドア越しに声を掛けてみたが、やっぱり返事がない。
「寝てるのかな…」
自分の部屋に戻るといつもと同じように寝る準備に取り掛かる。
コンタクトを外し、お風呂に入ってメイクも落としてから、髪を乾かす、それが終われば、後は寝るだけ。いつもと同じ。でもいつもと違うのは、今日はわたしの誕生日。
こんなことなら、強がらずにたかしの誘いを受け入れてれば良かったのかな。…でもそれはできない。もうあんな気持ちにはもう一生なりたくないから。
そんなことを思ってたら、もう日付は変わりそうだった。もしかしたらこの時間なら、誰かメールか何か送ってきてるかも。
携帯を確認してみたが、やっぱり誰からも連絡は来てなかった。
誕生日に誰からもメールが来ないなんて。あたしってそんなに友達少なかったっけ。
そういえば、この仕事するようになってから、みんなと休みが合わなくて、付き合い悪くなったんだっけ。挙句の果てに彼氏にもフラれて…誕生日も。
わたし今日でいくつになるんだっけ?
誕生日の思い出を振り返ると、子供の頃に、パパとママからお誕生日をお祝いしてもらったときの、楽しかった思い出が蘇った。
「みやこ、お誕生日おめでとう! みやこは、今日でいくつになったの?」
パパ…。
♪~
ずっとつけっ放しにしていたテレビから急にドラクエの中で、メッセージが入った音が鳴った。
あ、チャットが入ってる、なんだろう。
「ゴローさん、集会所に来てください~」
メッセージに誘われるまま、集会所に行くと、いつもの集会所が、なぜかキラキラに飾りつけされていた。
部屋の真ん中には、塔のような背の高さほどもある大きなケーキが置かれていた。そして、その周りには、いつも一緒に冒険をしてるドラクエ10の仲間がたくさん集まっていた。
知ってる顔がいっぱいだ。
その中には、もう隣で寝てると思っていたパウさんの姿もあった。
でもこんな夜遅くに一体なんだろう。
…そう思ったとき、
「ゴローさん、いつも遊んでくれてありがとう、これは、みんなからのお礼です、お誕生日おめでとう!」
パウさんのそのコメントとともに、集まっていた他の仲間からもお祝いのコメントが殺到した。
「ゴローさん、お誕生日おめでとうございます」
「お誕生日おめっとさん」
「誕生日一緒に過ごせてうれしいです」
「おめでとうございます、ゴローさん!」
「ハッピーバースデー」
「ふふふっ おめでと~ ふふふっ ふふふっ」
「ゴローさ~ん!」
「これからもよろしくね。」
「わっしょ~い」
「お祝いシャワー」
テレビの画面は、知らないうちに祝福のコメントで、いっぱいになっていた。
わたしの誕生日、な、なんで…みんなが。
書き込まれたたくさんのコメントをひとつひとつ読んでると、胸がいっぱいになって、涙が出てきた。
画面の文字が滲んでよく読めない。
さっきまでの不安だった気持ちも、知らないうちにどこかに消えていた。
みんな…。
「ふふふっ おめでと~ ふふふっ ふふふっ」
コメントの中にパウさんのコメントがあったのを見つけた。
みんなが祝福してるのを、一緒に手を叩いて笑ってるパウさん。
今になって、わたしのことを避けてた理由がわかった。
別に嫌いになってたわけじゃなく、今までずっとあたしのためにみんなと一緒に準備してくれてたんだね。
「パウさん…、ありがとう」
隣の部屋から、どういたしまして、といつもの弱弱しい声が返ってきた。
今日がこんな幸せな日になるなんて…。
<翌日、たくみのお店にみやこが行く>
窓から朝の優しい光が入ってくる。その光を体に浴びながら、リビングで一人、煎れ立てのコーヒーを飲む。昨日は、夜遅くまでゲームをしてて寝不足だけど、今日は、なぜか朝から気分が良い。
パウさんは、まだ起きてこないみたい。私の方が明日の仕事が早かったので、途中でゲームをやめてしまったけど、パウさんは、まだあれからみんなとゲームをやってたみたいだった。
「ゴローさん、お誕生日おめでとう!」
でも、まさかパウさんから誕生日をお祝いしてもらうなんて、全然考えもしてなかった。
初めて駅で会ったとき、この人がパウさん?って少しがっかりしたけど、でも私が誕生日一人で過ごそうとしてるのを知って、みんなと一緒にお祝いしてくれる優しいところは、やっぱりいつも回復呪文で助けてくれるあのパウさんなんだ。
せっかくお祝いしてもらったからには、私も何かお礼をしないと悪いよね。いつも迷惑かけてるし。今日は、仕事が早く終わったら、帰りにパウさんのお店にでも寄ってみよう。
-その夜。
お店の店員として働くパウさんの姿をはじめて見る。なぜか少しドキドキする。いつもは、どこか頼り無い感じがあるけど、仕事してる時は、どうなんだろう。
しばらく離れたところからパウさんが担当するレジの様子を窺ってみた。パウさんのレジに並んだお客が普通に会計を終えて、商品の入った袋を携えて何事もなくお店を出て行く。傍から見てると、よくあるお店の風景だった。当たり前か。
パウさんもちゃんと仕事してるんだ。
せっかくパウさんのお店に来たのに、何も買わないのは悪いので、このために一応、本も選んでおく。でもパウさんの職場は、アニメとか詳しくない私にとって、かなり未知の空間。結局、大好きなドラクエのマンガを見つけたので、それにした。
ちょうどお客が切れたので、そこを狙って、私もパウさんのレジに並ぶ。
「パウさん!」
少し脅かすつもりで元気良く声を掛けてみた。私の存在に気づいて、パウさんも驚いた。
でも仕事中なのか、いつもよりリアクションが控えめだ。パウさんとしてじゃなく、お店の店員として驚いてる感じ。もう少し驚いてくれると思ったんだけど。温度の差に少し傷つく。
「ゴローさん、…なんで?」
「…これ欲しかったからさ。せっかくだから、パウさんのお店の売り上げに貢献しようかと思って…」
昨日はありがとね。って言うつもりだったのに。
急になんで?とか言うから、反射的に後に用意してた建前の方を先に言っちゃった。先にそれを言ったらホントに買い物のついでに来たみたいじゃん。しかも、お店の売り上げにって、1冊500円の本を盾にして使う言葉なの…。…まあいいや。
実は、パウさんとは、今日の朝は会ってないから、昨日の夜ぶりに会う。といっても、昨日の夜は、壁越しに少し話しただけで、顔は見ていない。
一緒に住んでるのに、すごく久しぶりに顔を合わせたと思うと、なんかすごく照れくさい。いつもは普通に顔見てるのに、今日はなんか顔をちゃんと見ることが出来ない。
昨日、誕生日をお祝いしてもらったから、そのお礼も言おうと思ってたのに、面と向かって見たら、急に恥ずかしくて、なんて言っていいかわからない。なんかすごく変な感じ。周りに人がいるせいかな。
「545円頂戴いたします」
「…は~い、あっ」
小銭が無い。
「1000円からお願いします」
店員のパウさんに合わせて、私も今だけお客になりきる。急に他人行儀な感じが、くすぐられてるみたい。
「1000円 お預かりします」
「455円のお返しいたします、ありがとうございます」
パウさんにありがとうございます。って言われるのも、なんか変。昨日のお礼のつもりで来たんだけど。
おつりを渡されたとき、一瞬だけ、パウさんと手が触れた。
パウさんの手。職業柄、私は、どうしても人の手を見てしまう。この人はどんな手をしてるんだろうって。
意外ときれいな手をしていた。でも、男の人だから、女の子みたいに爪のケアまではしていない。
ネイリストにとっては、ケアしてない爪を見ると、どうしても無性に綺麗にしてあげたくなるんだよね。あああ~~、家に帰ったら、パウさんの手もついでにケアしてあげるか。
「じゃあ、また、おうちでね!頑張って!」
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昨日は、ゴローさん、喜んでくれたみたいで良かった。みんなと一緒に誕生日のお祝いができて、本当によかったな。
結局、今日の朝は会えなかったけど。今は、どうしてるんだろ。ゴローさん、まだ仕事中かな。
「パウさん!」
え、なんで。
ゴローさんが急にお店に現れた。一応仕事先は教えてたけど、まさかゴローさんが、うちのお店に来るなんて…。
ゴローさんはどうみても、アニメイトに通うような人じゃなさそうだけど。今日は、何しに来たんだろ。
「これ欲しかったからさ。せっかくだから、パウさんのお店の売り上げに貢献しようかと思って…」
ゴローさん、ドラクエ好きなのは知ってるけど、普段マンガとかも読むんだね。あんまりそういところ見たこと無いけど、あ、ロトの紋章の1巻か~。言ってくれたら普通に全巻貸してあげるんだけど。そうだ、今度、マンガの話とか振ってみよう。
「じゃあ、また、おうちでね!頑張って!」
ゴローさんが帰ると、店長が慌てて駆け寄ってきた。
「ちょっと、今のがゴローさん?、うわあ、かわいい…」
店長の”かわいい”という形容詞に同じように共感する。
ゴローさんはかわいい。
今までゴローさんのこと、人に紹介するなんて絶対無いと思ってたから、自分の中だけで、かわいいのかなと思ってたけど、やっぱりゴローさんは他の男の人が見ても、やっぱりかわいい人なんだ。そりゃそうだよね。
そんな人とルームシェアしてるなんて、今でもまだ信じられない。
「いやあ~たしかに、たくみ君が、普通に生活してたら、ぜ~ったいに関わらないタイプだね」
本当そうだと思う。ドラクエ10が無かったら、俺には絶対に知り合うことはない人だと思う。
「ははは、まあそういう相手にいくのが、勇者だけどね、…いっちゃえよ、始めちゃえよ」
店長にけしかけられて、悪い気はしなかったけど、でも、はいはいと鵜呑みにして、ノリで行動するほど俺はバカじゃない。今までそれでどれだけ傷ついてきたか。それにゴローさんのこともまだ俺にはよくわからないことだらけ。
なんとか話を合わせてるけど、話が合わないことも多いし。ゴローさんだって、俺みたいな話しにくいヤツに困ってると思う。だからそのうち、ゴローさんは、うちから出て行くと思う。
パウさん、私、部屋見つかったから…って。
<たくみ、みやこの爪のケアを断る>
…気まずい。
仕事を終えてパウさんが帰ってきた。わたしの方が早く家に着いたけど、コンタクトを外したり、メイクを落としたりしてて、まだ食事もできてなかった。
パウさんも食事がこれからだと言うので、一緒に同じテーブルで食べることにした。
パウさんは自分で買ってきたお弁当を広げて食べている。
黙々と…。
一緒にご飯を食べようと誘ったけど、意外と話すことが無かった。
ドラクエのことなら話は尽きないけど、誕生日のことに触れなきゃいけないから、それ以外で。
何かあったっけ?…あっ。
「…あ、そうだ、今度は、パウさんがうちのお客になってよ…」
今日は、パウさんの手のケアをするんだった。
お店でパウさんの手を見て気になってることを話し、パウさんの手を改めて近くで見せてもらった。
手に取ってまじまじと見ても、やっぱりパウさんの手は綺麗だった。
でも、爪が伸びたままなのと、何もケアしてないので爪に艶が無い。爪は、少し磨くだけで、見違えるほど綺麗になる。
私は、いつもサロンでお客さん相手に使ってる、営業トークを絡ませて、パウさんにケアするメリットを伝えた。
こう見えてわたしは、お客さんの心を掴むのは、結構、上手いほう。私に掛かれば、男性のお客さんでも、すぐに常連さんにしちゃうんだから。
男のパウさんだって、私の営業ト-クに掛かれば、”それじゃあ、お願いします”って、すぐに言わせて見せるわ。
お客さんを落とすコツは、そんなに難しくない。
まずは、簡単にできること、お客さんは忙しいから、時間が掛かりそうだったり、作業が複雑そうだと、それだけで面倒くさくなってやりたがらない。だからなるべく、作業が簡単なことを強調する。
「爪にさ何も塗らないから ケアだけさせてよ。爪の形整えて、甘皮だけ処理すんの、それだけで手の印象って大分変わるよ。」
後は、お客さんの立場に立って、誰もが共感しやすい言葉で自然に誘導してあげること。
「手の爪の汚い人に接客されるよりも、きれいな人にされるほうがいいじゃん?」
このステップさえ踏めば、パウさんだって…。
「い…いや、遠慮しておきます」
え?
え???
え???????
パウさんは、私から手を振りほどくようにして、テーブルから立ち上がると、食べていたお弁当とコップをシンクに戻し、自分の部屋に戻っていった。
パウさんが、部屋から出て行った後も、わたしは、しばらく放心状態だった。
断られたことより、あんなに強く拒絶されたことの方がショックだった。
そんなに私にケアしてもらいたくないの。
なんで?
よく考えても、断られる理由がみつからない。
昨日は、誕生日をお祝いしてくれたのに、今日は、激しく拒絶された。
パウさんって人がわからない。
何を考えてるのか。
別に爪のケアくらいさせてくれたっていいじゃん。
わたしからのお礼だよ。
「ちぇ~っ、ケ~チ」
もういないパウさんの背中に不満をぶつける私を慰めるように、家の近所で飼ってる猫が何度も鳴いていた。
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ゴローさんに急に手を握られ、ビックリした。
あんな近くで見るゴローさんはやばい。
どうにかなってしまいそうだ。
間違いが…。
部屋に戻り、気持ちを落ち着かせようと、ドラクエを始めて見たが、全く集中できない。
気分を変えようと、布団に寝転がり、今の自分の状況を冷静に分析して見た。
…早く出て行ってほしいはずだったんだけどな。
自分の思い通りにならなくて、大変なことも多いルームシェアだけど、それも別に悪くないような気がしてきた。
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以上が、ドラマ「ゆうべはお楽しみでしたね」の第2話のあらすじですが、ついつい途中から気持ちが入リ過ぎて、女子高生が書きそうなライトノベル風タッチで、ドラマには全くないシーンを勝手に付け加えてしまいましたが(笑)、だいたいこの2話の二人の気持ちの変化(心情)は、こんな感じではないかと思っています。
個人的に、ドラクエを使ってゴローの誕生日をお祝いするシーンは、かなりツボで、あのシーンは想像するだけでかなり胸に染みますが、でもドラマの内容だけでは、時間的な都合もあり、説明不足が否めず、やや気持ちが物足りない印象があります。
見たまますっとゴローの気持ちに入っていくには、ある程度エピソードの補足が必要になります。
ちなみにドラマの内容だと、みやこが元彼と電話で話した後、そのことをたくみに話し、その夜にみやこが泣いてるのをたくみが知って、そのあと、すぐに時間が経過して、日曜日(誕生日)の夜になってしまいます。
それで、みやこが仕事から家に帰ってきて、結局、一人で部屋で過ごしていて、泣いているが(鼻をすすっている)、その後、たくみから誕生日のお祝いをされる。
流れとしてはわからなくはないですが、誕生日を一人でいることが、そんなに泣くほどのことか?という部分で、みやこの悲しさ(心情)がイマイチ伝わってきません。
ということで、家に入る前に玄関でふと何か思う本田翼の演技(心情)と、部屋で携帯を確認してるみやこの部分に至るエピソードを逆算して勝手に足してみました。※勝手に足すなよ
みやこという人物は、のちに明らかになりますが、気持ちの部分で、過去のパパとの思い出にずっと囚われてる人です。そこのショックが大きくて常に引きずっている。
元彼のたかしとの別れを引きずってるところも、遠からず共通する部分だと思います。そこをクリアーする要素を持っているたくみとの生活が、このドラマの大きなテーマでもあります。
ちなみに、恋愛部分としての大きな心情変化も面白いところですが、個人的には、そこまでではないジャブ程度のエピソード。
この2話だと、みやこがたくみのお店に行くや、手のケアを断られるみやこなどの気持ちを想像しても、独特の面白さがあります。※実際にあってるかは、製作者ではないので、違ってる可能性は大いにありますが。近からずでなくても、遠からずではないかと思います。
まードラマの話の受け取り方は、見た人に託されると仮定すれば、そういった楽しみもあるのではないかと思います。このブログは、そういうある一つの角度から見た、このドラマの理解です。
このドラマは、基本的にたくみは心の声がありますが、みやこの方は、心の声はありません。たまに心情をわかりやすく呟いたりしますが、ナレーションとして、本田翼(みやこ)がしゃべることはありません。
その部分の気持ちを、もしも…みやこだったら…と想像で明らかにする、楽しみあります。今後も第3話でも、できる限り明らかにしていこうかなと思っています。
ちなみに、この「ゆうべはお楽しみでしたね」は原作コミックがありますが、現在のところまだ読んでいません。全6話分のあらすじ心情解説をやってみた後、答えあわせのつもりで読み返してみようかなと楽しみをまだ取っています。
っということで、もし原作コミックをすでに読んでいて、原作の理解と解釈が違うと部分があった場合でも、しばらくスルーして頂ければ幸いです。
っというわけで、長いですが、次の3話に続きます。
※またこの第2話も、ドラマを再度見た後に新たな発見があれば、随時加筆、修正していきます。